走り出した寒鰆、二つの旬を持つ魚

魚売り場に並ぶ切り身が、秋刀魚からさわらへと少しずつ入れ替わってきました。
関東でこれから本番を迎えるのは、脂がぎゅっと乗った「寒鰆」。関東では「寒鰆」と呼ばれ、産卵期前の栄養を蓄えている12~2月の真冬が旬とされています。今はまだその走りの時期で、本格的な旬はもう少し先という感じでしょうか。一方、関西で獲れるサワラの旬の時期は漢字の通り、春です。5~6月に産卵のために瀬戸内海にやってくるサワラを獲ります。
つまり今は、東の旬にも西の旬にもまだ早い、静かな始まりのタイミング。これから寒さが増すにつれて、脂の乗りもぐっと変わっていきます。今のうちに、少し早めの一尾を味わってみるのも楽しみ方のひとつだと思いませんか。

ここだけの豆知識
「鰆」という字は、日本で生まれた字なんです
魚へんに春と書くこの漢字、実は中国から来たものではなく、日本で作られた字なんですよ。この字は日本で作られた国字(和製漢字)とされ、魚偏の国字にはほかにも鱈(身が雪のように白い)、鰯(弱りやすい魚)など、魚の特徴や旬をそのまま字にした例が多くあります。漢字「鰆」は春が旬の魚を表すとされ、晩秋から春にかけて瀬戸内海などで多く獲れたことに由来すると言われています。
名前の由来にはもうひとつ説があって、細長い体形や斑点に由来する説があるほか、「サ」が狭い、「ハラ」が腹を指すとする見方もあるそうです。漢字にも、呼び名にも、あの細長い姿がちゃんと刻まれているんですね。

実は、関東と関西で「旬」がまるで逆なんです
さわらは成長とともに呼び名が変わる出世魚で、サゴシ(40~50㎝)⇒ナギ(50~60㎝)⇒サワラ(60㎝以上)と変わり最大で1mを超える大型魚になります。
面白いのはそれだけじゃありません。サワラは5~6月にかけて、産卵のため瀬戸内海に集まってきます。昔からこの時季にたくさん獲ることができたため、関西では春が旬と認識されてきました。その一方で関東では、産卵期前の脂がのった12~2月の「寒鰆」が好まれるため、旬は冬だと認識されています。同じ魚なのに、住む場所によって「おいしい季節」の答えが違うというのは、ちょっと不思議な話だと思いませんか。
賢い選び方
見るところは3つです。あくまで目安として、参考にしてみてください。
身の色
身の色が白いものを選ぶのがひとつの目安です。くすんで灰色がかって見えるものは、少し時間が経っているサインかもしれません。

血合いの部分
血合部分の色が鮮やかなものも良いとされています。茶色っぽく変色しているものは、できれば避けたいところです。
皮やパックの状態
皮にハリとつやがあるものを選びたいところです。見た目だけで判断しきれない部分もあるので、消費期限や保存状態も合わせて確認しておくと安心ですよ。
おすすめの食べ方
やはり定番は西京焼きです。コツはひとつ、みそに漬け込む前に、軽く塩をして出てきた水気をしっかり拭き取ること。
さわらは身がやわらかく水分も多い魚なので、先に余分な水分を抜いておくと、みそが身になじみやすくなります。そのまま漬け込んでしまうと水っぽさが抜けきらず、味がぼやけてしまうこともあるのだそうです。みそ床に一晩ほど漬けたら、あとは焼くだけ。白みそは焦げやすいので、弱火で焼くのがさわらを焦がさないコツです。じっくり中まで火を通して、ふっくら仕上げてくださいね。

走り出したばかりの寒鰆と、まだ遠い春のさわら。ひとつの魚に二つの旬があると思うと、食卓に並ぶ一切れがちょっと特別に見えてきませんか。これからの季節、脂の乗り方の変化も楽しみにしていてください。